病院の寝床は嫌に気持ちがいい

ああ、ここはどこなのだろう

なぜ何もかも覚えていないのだろう

 

「うぇぇ…気持ち悪い…」

気がつくと私はベットに寝転がっていた

 

まぁ、感触的に私がベットに寝ているのを考察しただけなんだけどね

 

ふかふか…なわけでもなく

やけに沈み込むマットのような感触がする

 

とりあえず周りの様子を確認するために目を開けようとする

 

まぶたが重い…

力を振り絞り目を開ける

すると、

 

(まっ、眩しい…!)

 

そう、私の目の前は激しい光に照らされているのだ

しかも何やら周りに人の気配がする

 

(ひっ、人がいる…)

一瞬何かされるのではないかと考えたがその人は看護服を着ていたので

(あっ…ここは病院なのかな)

 

起きたばかりで状況もろくにつかめない

(とりあえず勇気を出して看護師と思われる人に話しかけて見よう…)

「ここはどこなんですか、私は…私はなんでこんなとこにいるのでしょうか?」

そう言うと看護師らしき人は驚いた様子で

「意識が戻ったのですね、今すぐ医者を呼んできます。安静にしていてくださいね」

と言ってすぐに部屋を出ていってしまった

 

"安静にしていてください"?

 

私、今どうにかなっちゃってるのかな…

急に不安が重くのしかかる

こんなんじゃあ安静にしていられないよぉ…

 

私の身に何が起こったのか思い出そうとしても記憶にモヤがかかったように

「あれ?私…起きる前何してたんだっけ?」

 

「ガチャン!」

 

急にドアが開いた

「ひっ、ひぃ」

そんないきなりドアを開かないでよぉ…

びっくりして情けない声が出てしまった

 

「びっくりさせて悪かったね」

声のする方に視線を落とすとさっきの看護師と一緒に誰かが立っているのが見えた

「私はこの病院の医者だよ」

医者…もしかして、と思っていたけど

やっぱりここは病院なんだ…

 

そして私はもう一度聞く

「先生…私はどうしてこんなところに…」

一瞬看護師と顔を見合わせたあと医者はこう言った

「君は事故にあってこの病院に運ばれてきたんだ」

 

やっぱりそうなんだ

嫌な予感はしていたけどね

というか無事だったらこんなところで寝てないよね…

 

ふと、医者に視線をやるとどうやらひどく"緊迫"しているらしい

 

なんで?なんでそんなに…

私そんなひどい状態なの?

 

起きたばかりで忘れていたけど自分の状態を確認しないと…

 

体がだるくて動く気になれないので体に力を入れて確認する

頭は…まだボーッとするけどだいぶマシだ

上から確認していく、特に意味はないもしかすると私の体がどうなってるのか気づくのが怖いだけなのかも

 

手は…動く、まだ十分には動かせないけど

その次に胸、その次におなか、と順に力を入れていく、そして…

 

あれ?

…………

 

足が…無い

足が無いというよりは、足の感覚が無い

いや、いや、でもでも足がしびれて動かせないだけだったり??

実際に足がどうなってるのか確認したわけでもないんだしはやとちりなだけの可能性もあるよね??

あ、そうだ医者、医者に聞けば良いんだ!

震える唇で医者に訴えかける

「あ、足の感覚が無いんですけど、わ、私の足ど、どうにかなっちゃってますか?」

医者は答えた

 

「大丈夫、安心して、きっと治してみせるからね」

 

終わった……

医者の安心するような言葉とは裏腹に私の脳内に嫌なイメージが叩きつけられる

足が無いんだ私

私、足が無いんだ

きっとそうなんだ

 

でもなんで?なんでぇ……

なんで足がなくなっちゃったんだろう

 

私にはもちろん足が無くなった時の記憶が無い

先生は事故に遭ったっていってたな…

 

車に足だけ轢かれちゃったとか?いやでも私そんな外でないし……

超悪質な猟奇的殺人鬼がナイフで私の足だけ切り落として……ってあるわけないよね

そうやって落ち着くために考えていると突然、答えあわせされた

 

「君は地震に巻き込まれ、脚を失ってしまったんだよ」

 

ああ、地震か…

ひどい話だ……ただ普通に暮らしていただけなのに

私は…私は…平和に暮らしたかっただけなのに

なんでそんな理不尽な…

 

"地震で脚を失った"という事実に世の中の無常さを感じるとともに酷く取り乱してしまう

 

「もう少しで君の脚を治すための手術が始まる」

「冷静さを保つんだ」

そうは言われたものの臆病な私は落ち着けるはずもなく

「え?え?し、手術ですか?治るんですよね?私また普通に歩けるようになるんですよね?また普通に動けて…また普通にご飯食べて…また普通に………」

それを見た医者は穏やかな声で

「大丈夫、安心して。また、普通の生活に戻れる」

そう言った

 

(はぁはぁ…少し落ち着いてきた)

医者の穏やかな声を聴いて少しづつだが落ち着きを取り戻してきた

 

しかしながら、脚を失ったという事実は消えることはない

 

地震で足を失うなんてしかし何故だろう

嫌な想像だけど上から物が落ちてきて足が潰されでもしない限り足が無くなるなんてことは…

 

地震地震

地震の事を考えているうちに頭の中のモヤがだんだん晴れてきて、記憶が少しずつ戻ってくる

 

そういえば私ここに来る前は家にいたよね…

 

でも家だと考えたら物が落ちてくるのも足が潰されるのもしっくり来る

私の家少し古かったし……

 

しかし、足を潰すほどの大きな物が家に置いてあっただろうか?

私の家は冷蔵庫やテレビも普通のより小さいし、何より私は自分の部屋で過ごしていたきがする…

 

そう、私の部屋に足を潰せるほど大きな物も重い物も無い

 

だとするとなんで?

 

もしかすると……家が倒壊した?

 

そう考えてゾッとする

とても嫌な感覚だ

 

屋根が落ちてきて足が挟まれ動けなくなる

その様子を想像して吐きそうになる

 

う、うぇぇなんでこんなことにならないと行けないんだ…

 

待てよ…家が倒壊したとすれば…

私は今まで自分の事しか考えてなかった。

自分のことで精一杯だったのだ

 

治療室のライトがつく

もうすぐ手術が始まる

 

私は急いで医者に話しかける

「家族は…」

それはかすれたような声で

「家族は…無事なんですか」

医者は冷静な様子で

「大丈夫、家族は…無事だよ。それよりもまずは手術に集中しよう」

と言った

 

よかった、家族は無事なんだね

でも、家族は地震の時、家にいた

家が倒壊するほどの地震なのに本当に無事だったんだろうか

確かめる術は無い、今は医者の言う事を素直に信じるしか無い

 

信じるしか、無いのだ…

 

頭がぼんやりしてきたどうやら麻酔を入れられた様だ

ああ、意識が遠のいていく……

 

これで目が覚めたら地震なんて起こってなくて、脚が無くなるわけもなくて、いつも通りの朝を迎えて、家族といつも通りの他愛ない会話をして

 

普通の日常が……待ってたら良いな

 

 

※このお話はフィクションで実際の人物、団体とは関係がありません

 

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